工程ごとのリスク洗い出し|起こる前に順位を付ける
不具合が起きてから対応する体制ができてくると、次に出てくるのが「起きる前に手を打てないか」という話です。ただ、起こり得ることを全部挙げると、数が多すぎて何も進みません。
一般には、工程ごとのリスク洗い出しは影響度と起こりやすさで順位を付けて、上から手を打つ形で行います。この記事では、工程ごとのリスク洗い出しについて、対象の決め方、点の付け方、そして順位をどう使うかをまとめます。
この記事の内容(8項目)
- 工程ごとのリスク洗い出しは、範囲を決めるところから
- 件数の多い工程から始める
- 1回2時間、5工程まで
- リスクの候補を出す4つの入口
- ヒヤリハットが集まっているほど、洗い出しが速い
- 「作業者が変わったら」を必ず1つ入れる
- 現場で聞く。会議室で考えない
- 影響度と起こりやすさで点を付ける
- 掛け算で並べて、上から見る
- 影響度が3なら、起こりやすさが低くても見る
- 点は議論しすぎない
- 洗い出したあと、何をするか
- 「手を打たない」を選べるようにする
- 不具合が起きたら、一覧に戻る
- 変更があったときに見直す
- 変更点の記録が、見直しの入口になる
- 新しい案件は別枠で見る
- 洗い出しが続かない理由
- その1:一覧を作ることが目的になる
- その2:参加者が管理職だけ
- その3:出したリスクが評価につながる
- 一覧に持たせる項目
- 点は毎回付け直す
- 現状の対応を書く欄が効く
- 年に1回、上位の推移を見る
- よくある質問
工程ごとのリスク洗い出しは、範囲を決めるところから
全工程を一度に洗うと、途中で力尽きます。1回で見るのは1つの製品ラインか、5工程前後にすると、その日のうちに終わります。
| 最初に選ぶ工程 | 理由 |
|---|---|
| 不具合の件数が多い工程 | すでに問題が出ている。効果が見えやすい |
| 変更点の多い工程 | 条件が安定していない。次に出る可能性が高い |
| 1人しかできない作業がある工程 | その人が抜けたときに止まる |
| 客先へ直接出る工程 | 流出したときの影響が大きい |
| 新しく立ち上げた工程 | 経験が浅く、想定外が出やすい |
件数の多い工程から始める
すでに不具合が出ている工程は、洗い出しの材料がそろっています。過去の不具合をそのままリスクの候補として使えるので、最初の1回としてはいちばん進めやすい選び方です。
1回2時間、5工程まで
時間を区切らないと、細かい議論に入り込みます。1工程あたり20分、5工程で2時間を目安にすると、粗くても全体が見えます。細かさは、2回目以降で上げていきます。
リスクの候補を出す4つの入口
「何が起こり得るか」を白紙から考えるのは難しい作業です。入口を4つ用意しておくと、参加者から出てきます。
| 入口 | 聞き方 | 出てくるもの |
|---|---|---|
| 過去の不具合 | この工程で過去に何が起きたか | 実際に起きたこと。いちばん確実 |
| ヒヤリハット | 危なかったが、たまたま止まったこと | まだ起きていないが、起こり得ること |
| 他社・他工場の事例 | 同じような作業で、よそで起きたこと | 自社の経験の外にあるもの |
| 4Mの変化 | 人・設備・材料・方法が変わると何が起きるか | これから起こり得ること |
ヒヤリハットが集まっているほど、洗い出しが速い
「あぶなかったが止まった」という記録が残っていると、リスクの候補がそのまま使えます。集まっていない現場では、この洗い出しの場が最初の収集の機会になります。集め方はヒヤリハットが集まらない理由で扱っています。
「作業者が変わったら」を必ず1つ入れる
いまの担当者だからできている、という作業は、どの工程にもあります。「この人が明日休んだら何が起きるか」という問いを1回入れると、属人化のリスクが表に出ます。
現場で聞く。会議室で考えない
工程のリスクは、その場に立つと出てきます。現場を歩きながら20分ずつ聞くほうが、会議室で2時間考えるより多く出ます。書記だけ用意しておけば足ります。
影響度と起こりやすさで点を付ける
候補が出たら、順位を付けます。2つの軸で3段階ずつにすると、迷わずに付けられます。細かくすると、点を付ける議論で時間を使います。
| 点 | 影響度 | 起こりやすさ |
|---|---|---|
| 3 | 客先へ出る/安全に関わる/生産が止まる | 月に1回以上ありそう |
| 2 | 後工程に影響する/手直しが必要 | 年に数回ありそう |
| 1 | その場で直せる/影響が限定的 | 数年に1回あるかどうか |
掛け算で並べて、上から見る
影響度 × 起こりやすさで9段階になります。6以上を今期に手を打つ対象、3から4を来期、2以下は記録だけという線を引くと、対象が現実的な数になります。
影響度が3なら、起こりやすさが低くても見る
安全に関わることや、客先へ出ることは、めったに起きなくても影響が大きくなります。掛け算の点が低くても、影響度が3のものは別枠で見るようにしておくと、重いものを取りこぼしません。
点は議論しすぎない
2か3かで議論が長くなったら、高いほうを取って先へ進みます。点の正確さより、上位が拾えていることのほうが大事です。順位が近いものは、どちらから手を付けても大きくは変わりません。
洗い出したあと、何をするか
一覧を作って終わりにすると、翌年また同じ一覧を作ることになります。上位のものに、担当と期限を付けます。
| リスクへの手の打ち方 | 例 |
|---|---|
| 起こらない形にする | 治具で位置を固定する、材料を取り違えられない置き方にする |
| 起きたら気づく形にする | 次工程で止まる、検知の仕組みを入れる |
| 起きたときの被害を小さくする | ロットを小さく分ける、早めに検査する |
| 手を打たない | 影響が小さい。理由と見直し時期を書いて残す |
「手を打たない」を選べるようにする
全件に対策を求めると、洗い出しそのものが避けられるようになります。やらないと決めることも正式な結論にしておくと、正直な洗い出しが出てきます。ただし理由と見直し時期は書きます。
不具合が起きたら、一覧に戻る
実際に不具合が起きたとき、その内容が一覧に載っていたかを見ます。載っていたのに手を打っていなかったなら、順位の付け方か、対策の実行に問題があります。載っていなかったなら、洗い出しの入口が足りていません。どちらも次回の改善につながります。
変更があったときに見直す
工程のリスクは、条件が変わると変わります。年に1回の定期だけでなく、変更のときにも部分的に見直します。
| 見直すきっかけ | 見る範囲 |
|---|---|
| 年度の初め | 全工程。粗くてよい |
| 設備・工法を変えた | その工程と、前後の工程 |
| 新しい製品を立ち上げた | その製品が通る工程 |
| 不具合が出た | その工程。一覧に載っていたかを確認 |
| 人が大きく入れ替わった | 属人化していた作業 |
変更点の記録が、見直しの入口になる
変更点管理の記録が日付順に並んでいれば、この半年で変わった工程がすぐ分かります。その工程だけ見直せば、全部を洗い直す必要がありません。変更点の管理は変更点管理の進め方で扱っています。
新しい案件は別枠で見る
初めての客先、初めての材料、初めての工法が含まれる案件は、既存工程の一覧では拾えません。受ける前に、案件単位で確認するほうが確実です。見る項目は新規案件のリスク確認にまとめました。
洗い出しが続かない理由
その1:一覧を作ることが目的になる
細かく網羅した一覧を作ると、達成感はありますが、そこで終わります。粗くてよいので、上位3件に手を打つところまで行くほうが価値があります。次回、その3件が消えていれば、洗い出しは機能しています。
その2:参加者が管理職だけ
実際に作業している人がいないと、机の上のリスクしか出ません。現場の人を1人入れるだけで、出てくる内容が変わります。現場を歩きながらやると、自然にそうなります。
その3:出したリスクが評価につながる
自分の工程のリスクを正直に出すと評価が下がる、という空気があると、出てこなくなります。リスクを出すことは良いこと、という扱いにしておかないと、洗い出しは形だけになります。
洗い出しで見つかったものを他工程にも広げる場合は、水平展開の進め方もあわせてご覧ください。
一覧に持たせる項目
リスクの一覧は、あとで引かれる形にしておきます。順位が付いていて、対策の状態が分かることが条件です。
| 項目 | 使い道 |
|---|---|
| 工程名 | 工程で絞って読む |
| 起こり得ること | 不具合が起きたときに、載っていたか照合する |
| 影響度・起こりやすさ・点 | 順位を付ける |
| 現状の対応 | すでに何かやっているか |
| 打つ手・担当・期限 | 上位のものだけ埋める |
| 状態 | 未着手/対応中/完了/対応しない |
| 見直し予定 | 対応しないと決めたものを、いつ見直すか |
点は毎回付け直す
対策を打てば起こりやすさが下がります。前回の点をそのまま残さず、見直しのたびに付け直すと、下がった行が見えます。下がっていないものが、手が打てていないものです。
現状の対応を書く欄が効く
「すでに何かやっているか」を書く欄があると、無いものと薄いものが区別できます。掲示だけで防いでいる、といった記述が並ぶ工程は、対策が弱い状態です。何もしていない行より、弱い対策で済ませている行のほうが見落とされます。
年に1回、上位の推移を見る
上位に並ぶ工程が毎年同じなら、そこには根本的な問題があります。個別のリスクではなく、工程の作りそのものを見直す合図です。設備の更新や工法の変更を検討する材料になります。
よくある質問
- Q. 1回の洗い出しにどのくらい時間をかけますか?
- 1工程あたり20分、5工程で2時間を目安にしてください。時間を区切らないと細かい議論に入り込みます。粗くても全体が見えるほうが、次の手が決まります。
- Q. 工程のリスク洗い出しは、どのくらいの頻度で行うべきですか?
- 年に1回の定期に加えて、設備や工法を変えたとき、新しい製品を立ち上げたとき、不具合が出たときに部分的に見直す形が現実的です。変更点管理の記録があれば、変わった工程だけを見直せます。
- Q. リスクの点数は何段階がよいですか?
- 影響度と起こりやすさを3段階ずつ、掛け算で9段階が扱いやすい粒度です。細かくすると、点を付ける議論で時間を使います。2か3かで迷ったら高いほうを取って先へ進んでください。
- Q. 洗い出したリスク全部に対策が必要ですか?
- 必要ありません。全件に対策を求めると、洗い出しそのものが避けられるようになります。上位2割に絞り、残りは記録だけにしてください。手を打たないと決めるときは、理由と見直し時期を書いておきます。
- Q. 起こりやすさが低くても影響が大きいものはどう扱いますか?
- 掛け算の点が低くても、影響度が最高のもの(安全に関わる、客先へ出る)は別枠で見てください。掛け算だけで並べると、めったに起きない重いリスクが下に沈みます。
- Q. 洗い出しの場に誰を呼ぶべきですか?
- 実際に作業している人を必ず1人入れてください。管理職だけだと、机の上のリスクしか出ません。現場を歩きながら20分ずつ聞く形にすると、自然に現場の人が入ります。
- Q. 安全のリスクアセスメントと同じものですか?
- 別のものです。労働安全衛生の分野には法令や指針に基づく仕組みがあります。この記事で扱っているのは、品質と業務の面で何が起こり得るかを並べる社内の活動です。安全に関する法令上の要求は所管の行政庁にご確認ください。
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