水平展開の進め方|広げる範囲の決め方と確認のしかた
1つの不具合を直したあと、「同じことが他でも起きるのでは」という話になります。これが水平展開です。方向としては正しいのですが、実際にやろうとするとどこまで広げるかで止まります。全社に展開しようとすると終わらず、担当工程だけだと意味が薄くなります。
一般には、水平展開は同じ原因が成り立つ範囲に対して行います。この記事では、水平展開の進め方を、範囲の決め方、確認のしかた、そしてやりっぱなしにしないための記録まで順にまとめます。
この記事の内容(8項目)
- 水平展開の進め方は、範囲を決めるところが9割
- 原因の言葉を、そのまま検索条件にする
- 水平展開と、似た言葉の使い分け
- いちばん良いタイミングは「原因が分かった日」
- 予防処置に寄りすぎない
- 過去に同じことが起きていないかを、あわせて見る
- 探した範囲を残さないと、また同じ検索をする
- 集計表があると、この作業が5分で終わる
- 水平展開の確認のしかた
- 「対策不要」の理由まで書く
- 現物を見る。図面と手順書だけで判断しない
- 対象が多いときの絞り方
- 低い優先度のものは、別の活動に送る
- 期限は案件の期限と分ける
- 水平展開の対象を洗い出す3つの入口
- 設備からの洗い出しがいちばん取りこぼしにくい
- 3つの入口を全部使わなくてよい
- 入口が決まらないときは、原因の言葉を短くする
- 洗い出した一覧は次回も使う
- 水平展開がやりっぱなしになる3つの形
- その1:全社メールで終わる
- その2:対象は決めたが、確認の期限が無い
- その3:確認したが、対策が入っていない
- よくある質問
水平展開の進め方は、範囲を決めるところが9割
水平展開が立ち消えになるとき、原因はたいてい対象が多すぎることです。広げる先を「同じ製品」ではなく「同じ原因」で選ぶと、対象が現実的な数になります。
広げすぎる選び方
同じ製品を作っている全ライン。同じ部署の全工程。
似た名前の作業すべて。
対象が数十件になり、確認が終わらない。
原因で選ぶ
位置決めの治具が無い作業。同じ設備を使っている工程。
同じ仕入先の材料を使う品番。
対象が数件に絞れて、その週に終わる。
原因の言葉を、そのまま検索条件にする
確定した原因が「少量品は手貼りという前提で立ち上げたため、位置決めの治具が無い」なら、探すのは「少量品で、手作業で位置を合わせている工程」です。製品名でも部署名でもありません。この言い換えができれば、対象はだいたい5件前後に収まります。
| 確定原因 | 探す条件(水平展開の対象) |
|---|---|
| 位置決め治具が無く目視で合わせていた | 手作業で位置を合わせている工程 |
| 材料ロットの切替時に確認手順が無かった | ロット切替がある全工程 |
| 検査基準に許容差の記載が無かった | 同じ書式で作られた検査基準書 |
| 夜勤帯に確認者を置いていなかった | 夜勤帯に1人作業になる工程 |
水平展開と、似た言葉の使い分け
現場では「横展開」「ヨコテン」とも呼ばれます。呼び方はどれでもかまいませんが、再発防止や予防処置との関係を整理しておくと、記録の置き場所が決まります。
| 言葉 | 対象 | いつやるか |
|---|---|---|
| 再発防止 | 不具合が起きた場所 | 原因が分かったあと |
| 水平展開 | 同じ原因を持つ他の場所 | 原因が分かった直後 |
| 予防処置 | まだ起きていないあらゆる場所 | 随時(不具合と無関係でもよい) |
いちばん良いタイミングは「原因が分かった日」
水平展開は、対策が終わってからやるものだと思われがちです。ただ、対策が終わるころには関係者の関心が下がっていて、手が付きません。原因が確定した日に対象を決めてしまうほうが、実行率が上がります。対策の実施と並行して進められます。
予防処置に寄りすぎない
水平展開の対象を「起こり得るところ全部」に広げると、それは予防処置になります。予防処置は必要な活動ですが、案件の期限では回りません。水平展開は、いま分かっている原因が成り立つ範囲に限ると、期限内に終わります。
過去に同じことが起きていないかを、あわせて見る
水平展開は「これから起きるかもしれない場所」を見る活動ですが、同時にすでに起きていた場所も見ておくと、拾えるものが増えます。
| 探した結果 | 意味 | 次にやること |
|---|---|---|
| 他の工程で同じ現象が過去にあった | そのとき原因まで届いていなかった | 当時の案件を開き直し、今回の原因で説明できるか見る |
| 似た現象があったが原因が違った | 別件。分けて扱う | 参考として記録に残す |
| 何も無かった | 今回が初出 | 探した範囲を1行残す |
探した範囲を残さないと、また同じ検索をする
過去を調べたときに何も出てこないと、記録に残らないまま終わりがちです。いつからいつまでを、どの軸で探したかを1行書いておくと、次の担当者が同じ検索を繰り返さずに済みます。探し方は類似不具合の調べ方にまとめました。
集計表があると、この作業が5分で終わる
月次で不具合を分類して数えていると、過去の検索が一覧を眺めるだけで済みます。逆に、案件ごとの報告書しか無い現場では、探すのに半日かかります。集計を続けている効果は、こういう場面で出ます。
水平展開の確認のしかた
対象が決まったら、1件ずつ見にいきます。ここで大事なのは、見にいった結果を全件残すことです。問題があった場所だけ残すと、見ていない場所と区別がつきません。
| 確認する項目 | 書き方 |
|---|---|
| 対象 | 工程名・製品名・設備名など、特定できる形で |
| 同じ原因が成り立つか | 成り立つ/成り立たない、と理由 |
| 確認者・確認日 | 誰が、いつ見にいったか |
| 判定 | 対策要/対策不要/対応済 |
| 対策の内容と期限 | 対策要のときだけ |
「対策不要」の理由まで書く
見にいって問題が無かった場合、判定だけ書いて理由を省くと、あとから読んだ人が確認をやり直します。「この工程は自動貼付機なので、目視で位置を合わせる場面が無い」のように、成り立たない理由を1行残します。
現物を見る。図面と手順書だけで判断しない
手順書の上では治具を使うことになっていても、現場では使っていないことがあります。水平展開の確認は、可能な範囲で現場に行って現物を見るほうが精度が上がります。書類だけの確認は「対策不要」が増えます。
対象が多いときの絞り方
それでも対象が20件、30件になることがあります。全部を同じ深さで見ようとすると終わらないので、順番を付けます。
| 優先度 | あてはまる対象 | 見方 |
|---|---|---|
| 高 | 客先へ直接出る/安全に関わる/同じ設備を使う | 現場で現物を確認する |
| 中 | 社内で止まる工程/条件が近い | 担当者に聞き取りし、記録で裏を取る |
| 低 | 条件が一部だけ重なる | 次回の工程リスク洗い出しで見る |
低い優先度のものは、別の活動に送る
優先度が低い対象を無理に案件の中で処理しようとすると、案件が閉じられません。次の工程リスクの洗い出しに送るという扱いにして、案件からは外します。送り先が決まっていれば、放置ではなく移管です。工程ごとにリスクを並べる方法は工程ごとのリスク洗い出しで扱っています。
期限は案件の期限と分ける
水平展開の確認は、元の案件の対策より時間がかかることがあります。案件の期限に縛ると、確認が形だけになります。展開の期限は別に置いて、案件を閉じたあとも追える形にしておくほうが現実的です。
水平展開の対象を洗い出す3つの入口
対象を思いつきで挙げると、抜けが出ます。入口を3つ決めておくと、毎回同じ精度で洗えます。
| 入口 | 見るもの | 向いている原因 |
|---|---|---|
| 設備から | 同じ機械・同じ治具・同じ工具を使う工程 | 設備の設定、摩耗、治具の欠落 |
| 手順から | 同じ書式の手順書、同じ作業動作を含む工程 | 手順の記載漏れ、判断基準の欠落 |
| 人から | 同じ人が担当する作業、同じ教育を受けた人 | 教え方、引き継ぎ、力量の判定 |
設備からの洗い出しがいちばん取りこぼしにくい
設備や治具は台帳で追えるので、対象が機械的に出ます。「この治具を使っている工程を全部出してください」という聞き方なら、担当者の記憶に頼りません。人からの洗い出しは、逆にいちばん取りこぼしやすい入口です。
3つの入口を全部使わなくてよい
確定した原因によって、効く入口は変わります。治具の欠落が原因なら設備から、判断基準の欠落なら手順から入ります。原因に対して入口を1つ選び、それで出た対象を丁寧に見るほうが、3つを浅く回すより結果が出ます。
入口が決まらないときは、原因の言葉を短くする
確定原因の文が長いと、どの入口で探せばよいか決まりません。「何が無かったのか」を一語にすると入口が決まります。治具が無かった、基準が無かった、確認者がいなかった。この一語が、そのまま設備・手順・人のどれかを指します。
洗い出した一覧は次回も使う
「この治具を使っている工程」の一覧は、一度作れば次の案件でもそのまま使えます。作った一覧を案件の中だけで捨てず、設備台帳や工程の一覧に戻しておくと、2回目からの水平展開が速くなります。
水平展開がやりっぱなしになる3つの形
その1:全社メールで終わる
「同じ不具合に注意してください」というメールを流して終わり、という形です。読んだ人が自分の工程に当てはまるか判断できないので、何も起きません。対象を名指しして、確認して返してもらう形にすると動きます。
その2:対象は決めたが、確認の期限が無い
対象の一覧を作った時点で満足してしまい、確認が進まない形です。1件ずつに確認者と期限を入れておくと、遅れている行が表に出ます。
その3:確認したが、対策が入っていない
「対策要」と判定したのに、その対策が誰の仕事にもなっていない形です。元の案件の対策と同じように、担当と期限を付けて実施計画に載せます。判定と対策を同じ表で追えると、ここが抜けません。
対策が現場で続いているかの確かめ方は対策の定着、効いたかどうかの判定は是正処置の有効性確認で扱っています。
よくある質問
- Q. 水平展開と横展開は違うものですか?
- 同じものを指す言い方の違いです。現場では「ヨコテン」とも呼ばれます。呼び方より、対象を「同じ原因が成り立つ範囲」に絞れているかどうかのほうが結果に効きます。
- Q. 水平展開はどのタイミングで始めるべきですか?
- 原因が確定した日が最も実行率の高いタイミングです。対策が終わってからだと、関係者の関心が下がっていて手が付きません。対策の実施と並行して進められます。
- Q. 対象が多すぎて確認が終わりません。
- 対象を「同じ製品」「同じ部署」ではなく「同じ原因が成り立つ条件」で選び直してください。それでも多い場合は、客先へ直接出るもの・安全に関わるものを優先し、条件が一部だけ重なるものは次回の工程リスク洗い出しへ送ります。
- Q. 問題が無かった工程も記録に残す必要がありますか?
- 残してください。見にいって問題が無かったのか、まだ見ていないのかが区別できなくなります。「この工程は自動化されていて該当しない」のように、成り立たない理由を1行添えると、次に読む人が確認をやり直さずに済みます。
- Q. 水平展開はどのくらいの期間で終わらせるべきですか?
- 元の案件の対策と同じ期限に縛ると、確認が形だけになりがちです。対象が5件前後なら2週間、10件を超えるなら優先度の高いものから1か月、といった置き方が現実的です。案件を閉じたあとも追える形にしておけば、期限を分けても放置になりません。
- Q. 水平展開の対象は、他部署にも広げるべきですか?
- 同じ原因が成り立つなら広げます。ただ、他部署に依頼する場合は、こちらで対象を名指しして、何を確認してほしいかを具体的に伝えてください。全社への注意喚起メールでは動きません。
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