新規案件のリスク確認|受注可否の判断基準と、受ける前に見る5つ
不具合の記録を並べると、初めてやることが重なった案件に集中していることがよくあります。新しい客先、新しい材料、新しい工法。1つなら対応できても、3つ重なると想定外が出ます。
一般には、こうした案件は受ける前に条件を確認することで、あとの手戻りを減らせます。この記事では、新規案件のリスク確認について、見る5つの観点、初めての条件の数え方、そして条件付きで受ける形をまとめます。
この記事の内容(11項目)
- 新規案件で見る5つ
- 「初めて」がいくつあるかを数える
- 検査の項目がいちばん抜ける
- 見積もりの前に見る
- 条件のあいまいさを潰す
- 外観の基準は見本で決める
- 決まっていないことを、決まっていないと書く
- 確認の期限を切る
- 断る判断、条件付きで受ける判断
- 条件付きが、いちばん現実的
- 断る基準を先に決めておく
- 受けると決めたら、前向きに準備する
- 初回の立ち上げで見ること
- 時間を測っておく
- 作業者に聞く
- 強化をいつまで続けるか決める
- 案件が始まったあとの見直し
- 拾えなかったリスクを記録する
- 出なかったリスクも記録する
- 既存工程のリスク一覧に合流させる
- 誰が確認するか
- 15分の打ち合わせで足りる
- 誰が最終的に決めるかを決めておく
- 確認したことを記録に残す
- 新規案件のリスク確認でつまずきやすい3つ
- その1:受注が決まってから確認する
- その2:確認項目が多すぎて続かない
- その3:リスクを挙げただけで終わる
- 新規案件のリスクにかかわる最近の動き(2026年10月時点)
- 新規案件のリスクに出てくる用語
- 新規案件のリスクと一緒に押さえておきたいこと
- 決まっていない条件は、決まったあとに示してもらう
- 費用が変わったら、協議を求められる
- 新しい設備や材料を使う案件は、安全のリスクアセスメントの時期にもなる
- 工程ごとのリスク洗い出しとは、見る時期と単位が違う
- よくある質問
新規案件で見る5つ
確認する項目を5つに絞ると、見積もりの段階で回せます。全部を細かく見るより、5つを毎回見るほうが続きます。
| 観点 | 見ること | 危ないサイン |
|---|---|---|
| 相手 | 初めての客先か。品質要求の水準 | 要求が書面で示されない。窓口が不明確 |
| もの | 初めての材料・形状・寸法 | 社内に実績が無い。測定器が無い |
| 作り方 | 初めての工法・設備・外注先 | 試作をしていない。条件が決まっていない |
| 量と納期 | ロットの大きさ、納期の余裕 | 初回から量産。試作の時間が無い |
| 検査 | 合否の判定方法。測定器の有無 | 基準が「良品と同等」など曖昧 |
「初めて」がいくつあるかを数える
5つの観点のうち、いくつが初めてかを数えます。3つ以上が初めてなら、想定外が出る前提で準備します。1つだけなら、通常の変更点管理で足ります。
検査の項目がいちばん抜ける
作れるかどうかは検討しても、作ったものをどう合否判定するかは見落とされます。測定器が無い、基準が決まっていない、という状態で量産に入ると、初回の出荷で止まります。
見積もりの前に見る
受注が決まってから確認すると、断れない状態で問題が見つかります。見積もりを出す前に5つを見ると、条件や価格に反映できます。5分から10分で済みます。
条件のあいまいさを潰す
新規案件で後から問題になるのは、決まっていなかった条件です。図面に書いていない項目こそ、先に確認します。
| 確認する項目 | あいまいなまま進めると |
|---|---|
| 外観の基準 | 初回の出荷で「これでは受け取れない」と言われる |
| 検査の範囲と方法 | 全数と思っていたら抜取だった、またはその逆 |
| 付属する書類 | 成績書やミルシートの要否が直前に判明する |
| 梱包と表示 | 指定があったのに知らずに出荷する |
| 納期の起点 | 出荷日か到着日かで数日ずれる |
| 変更時の連絡 | 材料を替えたら承認が必要だった |
外観の基準は見本で決める
「きれいに」「傷が無いこと」では、初回の出荷で必ず揉めます。限度見本を作って合意するのが確実です。試作の段階で相手と一緒に決められると、あとが楽になります。見本の扱いは限度見本の管理で扱っています。
決まっていないことを、決まっていないと書く
すべてを確定させてから始められる案件はまれです。未確定の項目を一覧にしておくと、あとで問題になったときに「そこは未確定だった」と示せます。空欄にすると、決まっていたことになります。記録の残し方は受注条件の認識違いを防ぐにまとめました。
確認の期限を切る
未確定の項目には、いつまでに決めるかの期限を入れます。期限が無いと、量産が始まるまで決まりません。
断る判断、条件付きで受ける判断
確認の結果、そのままでは受けられないことがあります。断る以外に、条件を付けて受ける形があります。
| 判断 | あてはまる場面 |
|---|---|
| そのまま受ける | 初めての要素が1つ以下。実績のある範囲 |
| 条件付きで受ける | 試作を先にする、初回ロットを小さくする、納期に余裕をもらう |
| 価格を見直して受ける | 検査の負担が大きい、測定器の購入が要る |
| 断る | 安全に関わる要求に応えられない。設備が無い |
条件付きが、いちばん現実的
断るのは営業上難しく、そのまま受けるのは危ない。その間に「条件付き」があることを共有しておくと、判断が現実的になります。試作を1回挟むだけで、多くの問題は事前に見つかります。
断る基準を先に決めておく
案件が来てから断るかどうかを議論すると、営業と製造で対立します。「これは受けない」という線を先に決めておくと、その場の議論になりません。安全に関わる要求、必要な設備が無い工程などが該当します。
受けると決めたら、前向きに準備する
リスクを挙げるのは、断るためではなく準備すべきことを洗い出すためです。挙げたリスクに対して、誰が何をいつまでにやるかを決めれば、受けられる案件は増えます。
初回の立ち上げで見ること
受けたあと、初回の生産で確認を厚くします。変更点管理の初品確認と同じ考え方です。
| やること | 内容 |
|---|---|
| 試作・初品を全数見る | 通常が抜取でも、初回は全数か多めの抜取 |
| 項目を増やして測る | 図面の指示以外に、心配な特性も測っておく |
| 時間を測る | 見積もりの前提と合っているか |
| 作業者に聞く | やりにくい点、迷った点 |
| 相手に見てもらう | 初回だけでも、現物を確認してもらう |
時間を測っておく
見積もりの前提と実際の作業時間がずれていると、続けるほど赤字になります。初回に測っておくと、次回の見積もりが正確になります。ずれが大きいなら、価格の見直しを相談する材料になります。
作業者に聞く
初回に「やりにくい」と感じた点は、量産でそのまま不具合につながります。初回の日に10分聞くだけで、あとの手戻りが減ります。
強化をいつまで続けるか決める
初回の確認強化は、いつまで続けるかを決めておきます。「3ロット連続で問題なければ通常に戻す」といった形です。決めないと、居座るか、いつのまにか消えます。
案件が始まったあとの見直し
受ける前に見たリスクは、始まってから変わります。初回のあとに1回見直すと、実態に合った形になります。
| 見直すタイミング | 見ること |
|---|---|
| 初回の生産後 | 挙げたリスクが実際に出たか。出なかったか |
| 3か月後 | 安定したか。強化した確認を通常に戻せるか |
| 不具合が出たとき | 受ける前の確認で拾えていたか |
| 条件が変わったとき | 材料、工法、量、納期の変更 |
拾えなかったリスクを記録する
実際に出た不具合が、受ける前の確認で拾えていなかったなら、確認の項目が足りていないということです。次の案件から、その項目を追加します。5つの観点は、こうして育てていきます。
出なかったリスクも記録する
心配していたが問題にならなかった項目も残しておくと、次の似た案件で過剰に構えずに済みます。経験が記録として積み上がります。
既存工程のリスク一覧に合流させる
案件が量産に入ったら、その工程は既存の工程になります。新規案件のリスク一覧から、工程別のリスク一覧へ移すと、以後は通常の見直しに乗ります。受ける前の確認はこの記事、量産に入ってからの工程ごとの見直しは工程ごとのリスク洗い出し、と役割を分けています。違いは記事の後半の表にまとめました。
誰が確認するか
新規案件のリスク確認は、営業だけでも製造だけでもできません。短時間でよいので、複数の目で見ます。
| 役割 | 見るところ |
|---|---|
| 営業 | 相手の要求、納期、価格、変更時の取り決め |
| 製造 | 作れるか、時間はどれだけかかるか、設備は足りるか |
| 品質 | 合否をどう判定するか、測定器はあるか、記録は何を残すか |
| 購買 | 材料が手に入るか、外注先はあるか |
15分の打ち合わせで足りる
大がかりな会議は要りません。5つの観点を1枚の紙で回して、15分で確認する形にすると続きます。全員が集まれないなら、紙を回して書き込む形でも成立します。
誰が最終的に決めるかを決めておく
意見が分かれたときに決める人が決まっていないと、案件が宙に浮きます。受注の可否を決める人を1人決めておくと、その場で結論が出ます。
確認したことを記録に残す
誰が何を確認したかを残しておくと、あとで問題が出たときに、どこで見落としたかが分かります。責任追及のためではなく、次の案件で同じ見落としをしないためです。
新規案件のリスク確認でつまずきやすい3つ
その1:受注が決まってから確認する
断れない状態で問題が見つかると、無理をして受けることになります。見積もりを出す前に5つを見るのが原則です。5分から10分で済みます。
その2:確認項目が多すぎて続かない
30項目のチェックリストを作ると、最初の数件で使われなくなります。5つに絞って毎回見るほうが、実際に効きます。足りない項目は、問題が出たときに追加します。
その3:リスクを挙げただけで終わる
心配なことを挙げても、誰が何をするかが決まっていなければ何も変わりません。挙げたリスクのうち上位2つに、担当と期限を付けるところまでやります。
新規案件のリスクにかかわる最近の動き(2026年10月時点)
新規案件のリスク確認そのものを定めた法令はありません。ただ、受ける側の会社が価格や条件を話し合うための決まりは、2023年から大きく変わっています。一次情報で確かめられたものを日付順に並べます。
| 時期 | 出来事 | 新規案件のリスク確認への影響 |
|---|---|---|
| 2023年11月29日 | 内閣官房と公正取引委員会が「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を公表した | 見積もりで労務費の上昇を説明するときの拠りどころになる |
| 2026年1月1日 | 下請法が改正され、取適法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律)として施行された。協議に応じない一方的な代金決定の禁止、手形払の禁止、従業員数の基準(300人・100人)の追加、発荷主から運送事業者への運送の委託(特定運送委託)の追加が主な改正点 | 条件付きで受ける、価格を見直して受ける、という話し合いを求めやすくなった |
| 2026年3月 | 中小企業庁の「価格交渉促進月間」(毎年3月と9月。2021年9月に始まり、この月で10回目)が行われた。6月26日に公表されたフォローアップ調査では、コスト上昇分のうち価格に転嫁できた割合が54.2%(前回53.5%)だった | 新規案件の見積もりでも、コストの上昇分を織り込む話をしてよい流れが続いている |
| 2026年9月16日 | 品質マネジメントシステムの国際規格の改訂版、ISO 9001:2026 が発行された。移行の期限は2029年9月30日 | 認証を受けている会社は、受ける前の確認の記録の残し方を、移行の準備とあわせて見直す時期になる |
新規案件のリスク確認で効いてくるポイントは、確認で見つかったリスクを、価格や条件の話し合いの材料として正面から出してよい環境が整ってきたことです。測定器の購入や試作の手間は、見積もりの前提として書面で示します。
出典:「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」の公表について(公正取引委員会)、取適法の概要(公正取引委員会)、取適法(e-Gov法令検索)、価格転嫁・取引適正化に向けた取組(中小企業庁、2026年8月)。ISO 9001:2026 の発行は ISO の担当委員会 ISO/TC 176 の発表による
確認日は2026年10月3日です。自社の取引が取適法の対象になるかは、公正取引委員会または中小企業庁の相談窓口でご確認ください。
新規案件のリスクに出てくる用語
新規案件のリスク確認では、社内の言い方と法令や規格の言い方が混ざります。出どころと一緒に並べます。
| 用語 | 意味 | 出典 |
|---|---|---|
| 製造委託 | 事業者が、販売や製造を請け負う物品、その部品や原材料、製造に使う金型などの製造を、ほかの事業者に委託すること | 取適法 第2条第1項 |
| 委託事業者・中小受託事業者 | 委託する側と受ける側。資本金の額か、常時使用する従業員の数(製造委託は300人)の組み合わせで当てはまるかが決まる | 取適法 第2条第8項・第9項 |
| 給付の内容などの明示 | 委託事業者は、委託したら直ちに、給付の内容、代金の額、支払期日などを書面または電磁的方法で示す。内容を定められない正当な理由がある事項は、定まったあと直ちに示す | 取適法 第4条第1項 |
| 要求事項のレビュー | 製品やサービスを顧客に提供することを約束する前に、要求事項を満たせるかを確かめること。品質マネジメントの規格(ISO 9001:2015 の 8.2.3)の言葉で、法令上の定義はない | 法令上の定義はない |
| 限度見本 | 合格と不合格の境目を示す現物の見本。法令上の定義はない | 法令上の定義はない |
| 初品確認 | 新しい条件で最初に作ったものを、項目を増やして確かめること。法令上の定義はない | 法令上の定義はない |
新規案件のリスク確認で取り違えやすいのは、「取適法の対象かどうか」を案件の大きさで判断してしまうことです。対象になるかは、取引の内容と、相手と自社の資本金や従業員数で決まります。初めての客先のときは、ここも5つの観点の「相手」の欄で確かめておきます。
新規案件のリスクと一緒に押さえておきたいこと
新規案件のリスクを扱う記事の多くは、プロジェクト管理や与信の話で終わっています。ここでは、製造の現場で受ける前に確認するときに役立つ点を4つ置きます。
決まっていない条件は、決まったあとに示してもらう
取適法の対象になる取引では、委託事業者は委託したら直ちに、給付の内容や代金の額などを書面または電磁的方法で示すこととされています。内容を定められない正当な理由がある事項は、定まったあと直ちに示すこととされています(取適法第4条第1項)。この記事の「決まっていないことを、決まっていないと書く」一覧は、あとで示してもらう事項の控えとしても使えます。
費用が変わったら、協議を求められる
取適法では、受ける側が費用の変動などを理由に代金の協議を求めたのに、協議に応じず、または必要な説明や情報の提供をせずに、一方的に代金を決めることが禁止されています(取適法第5条第2項第4号)。初回の生産で測った作業時間が見積もりの前提とずれていたら、その記録を添えて協議を求めると、話が具体的になります。
新しい設備や材料を使う案件は、安全のリスクアセスメントの時期にもなる
製造業などの事業者は、設備や原材料を新しく採用したり変えたりするとき、作業方法や作業手順を新しく採用したり変えたりするときに、危険性や有害性の調査を行うように努めることとされています(労働安全衛生法第28条の2、労働安全衛生規則第24条の11)。5つの観点の「もの」と「作り方」に初めてがあれば、安全の調査も同じ場で予定に入れると、場を2回作らずに済みます。
工程ごとのリスク洗い出しとは、見る時期と単位が違う
新規案件のリスク確認と、工程ごとのリスク洗い出しは、どちらもリスクを並べる作業ですが、役割が違います。
| 新規案件のリスク確認 | 工程ごとのリスク洗い出し | |
|---|---|---|
| いつ | 見積もりを出す前 | 年1回と、設備・工法などを変えたとき |
| 見る単位 | 案件(相手・もの・作り方・量と納期・検査) | 工程 |
| 物差し | 「初めて」がいくつ重なるか | 影響度と起こりやすさの点 |
| 結論 | 受ける、条件付きで受ける、価格を見直す、断る | 点の高いものから手を打つ |
量産に入って案件が安定したら、挙げたリスクを工程ごとの一覧へ移します。洗い出しの進め方は工程ごとのリスク洗い出しにまとめています。
出典:取適法(e-Gov法令検索)、労働安全衛生法(e-Gov法令検索)、労働安全衛生規則(e-Gov法令検索)。確認日は2026年10月3日です。安全のリスクアセスメントの要否は所轄の労働基準監督署にご確認ください。
よくある質問
- Q. 既存の相手からの新製品も対象ですか?
- 対象です。相手は既存でも、もの・作り方・検査が新しければリスクは同じです。5つの観点のうち「相手」だけが既存になるので、残りの4つを見てください。慣れた相手ほど確認が省かれがちな点に注意が要ります。
- Q. 新規案件のリスク確認はいつ行うべきですか?
- 見積もりを出す前です。受注が決まってから確認すると、断れない状態で問題が見つかります。5つの観点を見るだけなら5分から10分で済むので、見積もりの段階で回せます。
- Q. 確認する項目はいくつが適当ですか?
- 5つが目安です。相手、もの、作り方、量と納期、検査。30項目のチェックリストを作ると、最初の数件で使われなくなります。足りない項目は、問題が出たときに追加してください。
- Q. 「初めて」がいくつあると危ないですか?
- 3つ以上重なると、想定外が出る前提で準備してください。1つだけなら通常の変更点管理で足ります。数えること自体が、案件の性格を把握する近道になります。
- Q. リスクが高い案件は断るべきですか?
- 断る以外に、条件を付けて受ける形があります。試作を先にする、初回ロットを小さくする、納期に余裕をもらう、価格を見直す。断るのは、安全に関わる要求に応えられない、必要な設備が無いといった場合です。
- Q. 外観の基準はどう決めればよいですか?
- 限度見本を作って相手と合意するのが確実です。「きれいに」「傷が無いこと」では、初回の出荷で必ず揉めます。試作の段階で相手と一緒に決められると、あとが楽になります。
- Q. 確認は誰が行うべきですか?
- 営業、製造、品質、購買がそれぞれの観点で見てください。大がかりな会議は要りません。5つの観点を1枚の紙で回して15分で確認する形にすると続きます。意見が分かれたときに決める人も、先に決めておいてください。
- Q. 初回の生産で気をつけることは?
- 通常が抜取でも初回は全数か多めの抜取で見て、図面の指示以外に心配な特性も測っておいてください。あわせて作業時間を測ると、見積もりの前提と合っているかが分かります。強化をいつまで続けるかも決めておきます。
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