現物調査のやり方|良品と比べて事実を数字にする
不具合の原因分析は、会議室ではなく現物から始まります。ただ、現物調査は一度やると元に戻せない作業を含みます。分解した、洗った、切断した。そのあとで「もう一度あの状態を見たい」と言われても、戻せません。
一般には、現物調査は壊さない順に、記録を取りながら進めます。この記事では、現物調査のやり方を、触る前の記録から良品との比較、数値化、そして外部分析に出す判断までまとめます。
この記事の内容(8項目)
- 現物調査は、触る前の記録から始める
- スケールを一緒に写す
- 受け取った状態を変えない
- 良品と並べて、差を数字にする
- 測れないものは、比較で表す
- 良品も同じように測る
- 測定の条件をそろえる
- 壊さない順に調べる
- 破壊に進む前のチェック
- 1個しか無いときは、破壊しない
- 現物から読み取れること、読み取れないこと
- 右側は記録で埋める
- 客先で使われた履歴も聞く
- 外部の分析に出すかどうかの判断
- 結果で何を決めるかを先に書く
- 出さずに済ませられることも多い
- 現物が手元に来ないときの進め方
- 測る位置を図で示して依頼する
- 社内在庫を「代わりの現物」として使う
- 現物が無いまま進めた、と明記する
- 現物調査の記録を、あとで使える形に残す
- 「分からなかったこと」を書く
- 写真は記録とひもづける
- よくある質問
現物調査は、触る前の記録から始める
現物が届いたら、測る前にまず記録を取ります。ここで撮った写真が、あとで説明の主役になります。
| 撮るもの | 撮り方 |
|---|---|
| 受け取った状態そのまま | 梱包を開けた直後。汚れも傷もそのまま |
| 全体 | 製品の向きが分かる角度。上下左右が判別できるように |
| 問題箇所の寄り | スケールか定規を並べて。大きさが分かるように |
| ロット番号・刻印 | 読み取れる解像度で。あとで追跡の起点になる |
| 良品との並び | 同じ角度、同じ距離で。差が一目で分かる |
スケールを一緒に写す
寄りの写真だけだと、あとで見たときに大きさが分かりません。定規やノギスを並べて撮るだけで、写真が測定の記録になります。撮影日と撮影者も残しておきます。
受け取った状態を変えない
客先から返ってきた品は、途中で誰かが触っている可能性があります。届いた状態を先に記録しておけば、こちらで触ったことによる変化と、もともとあったものを区別できます。これは調査の精度だけでなく、相手との話し合いでも効きます。
良品と並べて、差を数字にする
現物調査で出したい結論は、「おかしい」ではなく「どこがどれだけ違うか」です。良品を1つ用意して並べるだけで、話が具体になります。
数字が無い記録
「バリが大きい」「色が濃い」
「取り付けが固い」
読んだ人が判断できない。
数字にした記録
「バリの高さ 0.4mm(良品0.05mm)」「明度が良品より18低い」
「挿入力 32N(良品12N)」
基準と比べられる。
測れないものは、比較で表す
色や手触りのように数値化しにくいものもあります。その場合は良品との相対で表すと伝わります。「良品より濃い」「良品より2段階暗い」といった形です。限度見本があれば、それとの比較で書きます。
良品も同じように測る
不良品だけ測って「0.4mm」と書いても、それが異常かどうかは分かりません。同じ測り方で良品も測って、両方書くと、その場で判断できる記録になります。良品は複数個測っておくと、ばらつきの幅も分かります。
測定の条件をそろえる
測る位置、測る向き、使った測定器を記録します。あとで別の人が測り直したときに、同じ数字が出るか確かめられる形にしておきます。位置がずれると、それだけで結論が変わることがあります。
壊さない順に調べる
現物調査には、元に戻せる作業と戻せない作業があります。戻せるものから順にやると、途中で方針が変わっても対応できます。
破壊に進む前のチェック
切断や研磨に進む前に、次の3つを確認します。ここで止めておくと、あとで悔やむ場面が減ります。
- 写真は撮り終えたか(外観・寸法・良品との並び)
- 客先へ返却する必要はないか。返すなら、破壊の了解を得たか
- 同じ不具合品が他にもあるか。1個しか無いなら、破壊は最後の手段
1個しか無いときは、破壊しない
不具合品が1個しか無い場合、破壊してしまうと再確認ができません。再現試験で同じ状態のものを作れないかを先に検討します。作れるなら、そちらを壊します。再現のさせ方は再現試験の進め方にまとめました。
現物から読み取れること、読み取れないこと
現物調査で分かるのは、いまの状態です。どうしてそうなったかは、現物だけからは分かりません。そこを混ぜないようにすると、調査の結論が正確になります。
| 現物から分かること | 現物からは分からないこと |
|---|---|
| 寸法、外観、重さ、材質 | いつその状態になったか |
| 破断面の形(疲労か一度の力か) | 誰が、どの工程で作ったか |
| 加工の痕、工具の跡 | そのとき条件がどうだったか |
| 組み立ての順序の痕跡 | 他のロットも同じ状態か |
右側は記録で埋める
現物から分からないことは、製造記録、検査記録、設備の履歴で埋めます。現物調査と記録の突き合わせをセットにすると、原因の候補が絞れます。現物だけ見て推測を書くと、そこから先の分析が全部その推測の上に乗ります。
客先で使われた履歴も聞く
返ってきた品は、相手の工程で使われたあとの状態かもしれません。どう使われたか、どこで気づいたかを聞いておくと、こちらの工程の問題か、使い方の問題かが分かれます。客先で直接見るときの進め方は現地確認の進め方で扱っています。
外部の分析に出すかどうかの判断
社内の設備で分からないときは、外部の分析機関に出す選択肢があります。ただ、費用と日数がかかるので、出す前に絞り込んでおきます。
| 出す前に決めること | 決めていないと起きること |
|---|---|
| 何を知りたいか(材質か、破断の原因か、異物の正体か) | 結果が出ても解釈できない |
| その結果で何を決めるか | 報告書を受け取って終わりになる |
| どこまで壊してよいか | 返ってきたときに元の形が無い |
| 日数と費用の見込み | 対策の期限に間に合わない |
結果で何を決めるかを先に書く
「異物が何か分かれば、混入経路が絞れる」というところまで先に書いておくと、結果が出た瞬間に次の手が決まります。ここが無いと、分析結果が報告書に添付されるだけで、対策につながりません。
出さずに済ませられることも多い
外部分析に出す前に、良品との比較、製造記録との突き合わせ、再現試験の3つを試すと、そこで答えが出ることがあります。費用と日数がかかる手段は、社内でできることを一通りやってからにすると、無駄が減ります。
現物が手元に来ないときの進め方
客先が現物を返してくれない、廃棄済み、大きくて動かせない。現物調査ができない案件は一定の割合で出ます。現物が無いことを理由に調査を止めると、そのまま原因不明で閉じることになるので、代わりの手を用意しておきます。
| 状況 | 代わりにやること |
|---|---|
| 現物が返らない | 写真と寸法の測定を相手に依頼する。測る位置を図で示す |
| すでに廃棄された | 同ロットの社内在庫を調べる。出荷前の検査記録を当たる |
| 大きくて動かせない | こちらから見にいく。測定器を持参する |
| 組み込まれていて外せない | 外部から測れる項目に絞る。次に外す機会を押さえておく |
測る位置を図で示して依頼する
相手に測定を頼むとき、「厚みを測ってください」だけでは、どこを測ったか分かりません。製品の図に測定位置を書き込んで渡すと、返ってくる数値が使えるものになります。測定器の種類も指定しておくと、精度がそろいます。
社内在庫を「代わりの現物」として使う
同じロットの在庫が残っていれば、それを測ることで傾向が分かります。不具合品そのものではないが、同じ条件で作られたものとして扱えます。ばらつきの幅が分かるので、むしろ判断材料が増えることもあります。
現物が無いまま進めた、と明記する
現物を見ずに書いた分析は、そのことを記録に残します。あとで現物が出てきたときに、結論を見直す必要があるか判断できます。見ていないのに見たように書くと、次の担当者が前提を誤ります。
現物調査の記録を、あとで使える形に残す
現物調査の結果は、その案件だけで終わりません。次に似た不具合が出たときに、比較の材料として使えます。
| 残す項目 | あとで使う場面 |
|---|---|
| 調査日・調査者 | 細かいことを確認したいとき |
| 対象(品名・ロット・個数) | 類似不具合を探すとき |
| 測定項目と数値(不良品・良品の両方) | 次の案件と数字で比べるとき |
| 使った測定器と条件 | 測り直すとき |
| 写真のファイル名か保管場所 | 報告書に添付するとき |
| 分かったことと、分からなかったこと | 次に調べる範囲を決めるとき |
「分からなかったこと」を書く
調査して分からなかったことは、書かれずに消えがちです。調べたが判断できなかった、という記録は、次の担当者にとって同じくらい価値があります。同じ確認を繰り返さずに済みます。
写真は記録とひもづける
写真だけがフォルダにたまっていると、どの案件のものか分からなくなります。管理番号をファイル名に入れるだけで、あとから引けます。記録の側にも、写真の保管場所を1行書いておきます。
調査結果から原因を絞る流れは原因分析の進め方、掘り下げ方はなぜなぜ分析のやり方で扱っています。
よくある質問
- Q. 現物調査は誰が行うべきですか?
- 品質や技術の担当が行うことが多いですが、作った工程の人を1人入れると精度が上がります。加工の痕や工具の跡は、その工程を知っている人にしか読み取れないことがあります。責める場にしないという前提は必要です。
- Q. 写真は何枚くらい撮ればよいですか?
- 枚数の目安より、押さえる場面が決まっているかが大事です。受け取った状態、全体、問題箇所の寄り、ロット番号、良品との並びの5種類が揃っていれば、あとから説明できます。撮りすぎて困ることはありません。
- Q. 現物調査はいつまでに行うべきですか?
- 早いほど良い、というのが実務上の答えです。現物は時間とともに状態が変わり、関係者の記憶も薄れます。すぐに調査できない場合でも、写真と受け取った状態の記録だけは先に取っておいてください。
- Q. 不具合品を分解してもよいですか?
- 外観・寸法・良品との比較の記録を取り終えてからにしてください。あわせて、客先へ返却する必要がないか、破壊の了解を得ているか、同じ不具合品が他にもあるかを確認します。1個しか無い場合は、再現試験で同じ状態を作れないか先に検討します。
- Q. 良品が手元に無いときはどうしますか?
- 直近の在庫や、社内に残っているサンプルを使います。それも無い場合は、図面や規格値との比較になります。ただし数値の解釈が難しくなるので、良品を1つ確保する手間をかけるほうが結果は確かです。
- Q. 測定結果はどこまで細かく書くべきですか?
- 測定値だけでなく、測った位置、測った向き、使った測定器を書いてください。あとで別の人が測り直したときに同じ数字が出るか確かめられる形が目安です。位置がずれるだけで結論が変わることがあります。
- Q. 外部の分析機関に出す判断基準はありますか?
- 社内でできること(良品との比較、製造記録との突き合わせ、再現試験)を一通りやってからで十分な場合が多くあります。出すときは、何を知りたいか、その結果で何を決めるかを先に書いてください。それが無いと、結果を受け取って終わりになります。
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