抜取検査とは?全数検査との分かれ目は損得で決まる
抜取検査は、ロットの中から一部を取り出して調べ、その結果でロット全体の合否を決める方法です。全部を調べる全数検査に対して、時間と費用を抑えられます。
方式の分類や計算のしかたは、JISにも解説にも載っています。実務で迷うのは、どちらを選ぶか、そして抜取で通したものから不具合が出たときにどう説明するかです。
この記事では、抜取検査を、全数検査との分かれ目・サンプルの取り方・通したものから出たときの扱いまでまとめます。
この記事の内容(9項目)
抜取検査と全数検査の分かれ目
どちらが正しいというものではなく、条件で決まります。
| 条件 | 向くほう | 理由 |
|---|---|---|
| 安全にかかわる | 全数 | 1個でも出たら影響が大きい |
| 壊さないと調べられない | 抜取 | 全数やると製品が残らない |
| 数が多く、1個あたりの検査が長い | 抜取 | 全数では時間が足りない |
| 工程が安定していない | 全数 | ロットの中でばらつく |
| 不具合が出たときの手戻りが小さい | 抜取 | 後工程で気づける |
ポイントはここです。抜取検査は「不良を見逃す確率がある」ことを承知で選ぶ方法です。見逃さないことを求めるなら、全数にするしかありません。
そのため、抜取にすると決めた時点で、どれくらい見逃す可能性があるかを把握しておきます。把握していないと、実際に出たときに説明できません。
とはいえ、全数検査も万能ではありません。人が見る全数検査は、数が多くなるほど見落としが増えます。数千個を目視で全数見るくらいなら、抜取にして工程側を直すほうが確実なこともあります。
工程側の安定を先に見るなら工程能力指数が材料になります。
抜取検査はロットの切り方から始まる
何をひとまとまりとして扱うかで、結果の意味が変わります。
同じ条件で作ったものを1ロットにします。材料のロットが変わった、段取りを直した、担当が替わった。このどれかがあれば、そこで区切ります。
条件の違うものを混ぜて1ロットにすると、サンプルがどちらから出たかで結果が変わります。これは検査の問題ではなく、ロットの切り方の問題です。
| 切り方 | 起きること |
|---|---|
| 1日分をまとめて1ロット | 午前と午後で条件が違うと、結果が安定しない |
| 材料ロットごと | 材料に起因する不具合を捉えやすい |
| 段取りごと | 段取りに起因する不具合を捉えやすい |
そのうえで、ロットの大きさも決めます。大きくすると検査の手間は減りますが、不合格になったときに止まる量が増えます。
不合格のときにどうするかまで決めてからロットを切ると、大きさの判断がしやすくなります。
ロット番号の付け方も決めておきます。日付と設備と連番を組み合わせる形がよく使われています。番号から製造の条件が読み取れると、不具合が出たときに範囲を絞りやすくなります。
番号を製品そのものに刻めない場合は、箱や現品票に付けます。そこが外れると追えなくなるので、どの段階で付け替えるかも決めておきます。
抜取検査のサンプルは、偏らないように取る
取り方が偏ると、いくら数を増やしても意味がありません。
よくあるのが、取りやすいところから取る形です。箱の上のほう、パレットの手前、最後に作った分。どれも、その位置に特有の条件が入ります。
- 時間で散らす。作った時間帯がばらけるように取る
- 場所で散らす。箱の上下、パレットの前後から取る
- 取る順番を決めておく。その場の判断で選ばない
とくに3つ目が効きます。検査する人が「これは大丈夫そう」と選んでしまうと、結果が実態より良く出ます。
取る個数は、ロットの大きさと求める水準から決まります。JISの表に当てはめる形が一般的ですが、社内で独自に決めている場合もあります。
どちらにしても、決めた根拠を残します。「昔からこの数」では、取引先に聞かれたときに答えられません。
取る人も決めておきます。作った本人が取ると、無意識に良いものを選んでしまうことがあります。別の人が取る形にできるなら、そのほうが確かです。
取ったサンプルは、検査が終わっても一定期間は残します。あとで不具合が出たときに、そのロットの実物が手元にあると原因の切り分けが早く進みます。
抜取検査のAQLは、どこまで許すかの取り決め
AQLは、合格としてよい不良の割合の上限を表したものです。
数字が小さいほど厳しくなり、取るサンプルの数も増えます。0.1と1.0では、必要なサンプル数が何倍も変わります。
| 決め方 | 使える場面 |
|---|---|
| 取引先の指定に従う | 指定がある。いちばん確か |
| 不具合の影響の大きさで分ける | 安全にかかわる項目は厳しく、外観は緩く |
| 過去の実績から決める | いまの工程の実力が分かっている |
項目ごとに変えるのが実務的です。すべての項目を同じ水準にすると、厳しすぎて回らないか、緩すぎて意味がないかのどちらかになります。
一般には、重大な欠点・重欠点・軽欠点の3つに分けて、それぞれ違う水準を当てる形が使われています。
外観のように数値で表しにくい項目は、限度見本を先に決めます。基準が無いまま抜取をしても、判定が人によって変わります。限度見本の扱いは限度見本の管理にまとめてあります。
抜取検査で不合格になったとき
先に決めておかないと、その場で判断することになります。
| 選べる道 | 向く場面 |
|---|---|
| ロットごと返す・廃棄する | 選別できない、価値が低い |
| 全数選別して良品だけ使う | 選別で見分けられる |
| 手直しして再検査 | 直せる不具合 |
| 特別採用として使う | 影響が小さく、取引先の了解が取れる |
どれを選ぶかは、不具合の内容と影響で決まります。ただ、決める人と手順は先に決めておきます。
そのうえで、不合格になったロットの記録を残します。何ロット中何ロットが不合格だったかは、工程の実力を示す数字になります。
不合格が続くなら、抜取の水準を上げるのではなく、工程を直す話になります。検査を厳しくしても、作られるものは変わりません。
選別で対応すると決めた場合は、選別する人と方法も決めます。目視で全数見る形にすると、数が多いほど見落としが出ます。
選別した結果も記録します。300個中12個が不良だったという数字は、工程の実力を示す材料になります。選別して終わりにすると、その情報が残りません。
特別採用の扱いは、社内で手順を決めておきます。その場の判断で通すと、次に同じことが起きたときの基準がなくなります。
抜取検査で通したものから不具合が出たとき
これがいちばん説明に困る場面です。
抜取検査は、見逃す確率をあらかじめ含んだ方法です。そのため、通したロットから不具合が出ること自体は、方法の失敗ではありません。
ただ、それをそのまま取引先に言っても伝わりません。説明で要るのは次の3つです。
- なぜ抜取にしていたか。全数にできない理由、または費用と効果の判断
- どの水準で取っていたか。サンプル数とAQL、その根拠
- 今後どうするか。水準を変えるのか、工程側を直すのか
3つ目でいちばん求められるのは、検査の強化ではなく発生そのものを止めることです。検査を厳しくする答えだけだと、根本が変わっていないと見られます。
報告の形は8Dレポートにまとめてあります。発生原因と流出原因を分けて書くと、抜取の話は流出原因のほうに収まります。
抜取検査の記録に何を残すか
合否だけ残していると、あとで何も分かりません。
| 残すもの | 後で使う場面 |
|---|---|
| ロットの識別 | 不具合が出たときに範囲を絞る |
| 取った個数と取り方 | 水準が適切だったかを見直す |
| 測った値そのもの | 傾向を見る。合否だけでは分からない |
| 検査した人と日時 | ばらつきの要因を追う |
| 判定の根拠 | 限度見本の番号、規格の出どころ |
値そのものを残しておくと、合格が続いていても規格に近づいている変化に気づけます。合否だけだと、ぎりぎりで通っていることが見えません。
そのため、値を時間順に並べて見る形と組み合わせます。見方は管理図にまとめてあります。
記録の保存期間も決めておきます。取引先から求められる期間と、自社で追いたい期間の長いほうに合わせます。
検査の結果を取引先へ出す書面については、検査成績書にまとめてあります。全数か抜取かを書く欄が、そこで効きます。
抜取検査から全数検査へ切り替えるとき
ずっと同じ方式でいる必要はありません。
不具合が続いたとき、新しい工程を立ち上げたとき、条件を変えたとき。一時的に全数へ切り替える判断はよく取られます。
大事なのは、戻す条件も一緒に決めておくことです。「安定するまで」では戻せません。「連続20ロット合格で抜取に戻す」のように、数えられる形にします。
条件を決めずに全数へ切り替えると、その全数検査が何年も続きます。人手がそこに固定され、工程を直す余力が無くなります。
切り替えたこと自体も記録に残します。いつ、なぜ切り替え、いつ戻したか。同じ工程で切り替えが繰り返されているなら、工程そのものに手を入れる合図です。
よくある質問
- Q. 抜取検査はJISに従う必要がありますか。
- 取引先から指定がなければ、社内で決めた方式でも構いません。ただし、決めた根拠は残しておきます。JISの表を使うと、水準の説明が共通の言葉でできる利点があります。
- Q. 抜取検査と全数検査はどちらを選びますか。
- 安全にかかわるものや工程が安定していないものは全数、壊さないと調べられないものや数が多いものは抜取が向きます。抜取は見逃す確率を承知で選ぶ方法なので、見逃せない項目には使いません。
- Q. サンプルは何個取ればよいですか。
- ロットの大きさと求める水準から決まります。JISの表に当てはめる形が一般的です。社内で独自に決めている場合も、決めた根拠を残しておきます。取引先に聞かれたときに答えられません。
- Q. サンプルはどこから取りますか。
- 時間と場所を散らして取ります。箱の上だけ、最後に作った分だけといった取り方は偏ります。取る順番を先に決めておくと、検査する人が選んでしまうことも防げます。
- Q. 抜取で通したロットから不具合が出ました。
- 抜取は見逃す確率を含んだ方法なので、それ自体は方法の失敗ではありません。説明では、なぜ抜取にしていたか、どの水準だったか、今後どうするかの3つを示します。3つ目は検査の強化だけでなく、発生を止める話まで含めます。
- Q. AQLはどう決めますか。
- 取引先の指定があればそれに従います。無ければ、不具合の影響の大きさで項目を分けて、それぞれ違う水準を当てます。すべて同じ水準にすると、厳しすぎるか緩すぎるかのどちらかになります。
- Q. 不合格が続きます。水準を厳しくすべきですか。
- 検査を厳しくしても、作られるものは変わりません。工程側を直す話になります。一時的に全数へ切り替える場合も、戻す条件を数えられる形で決めておきます。
- Q. 記録は合否だけで足りますか。
- 測った値そのものを残すほうが後で使えます。合否だけだと、規格に近づいている変化が見えません。合格が続いていても、値が片側に寄ってきていれば、そのうち不合格になります。
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