トレーサビリティ体系図とは?切れる場所を先に見つける
トレーサビリティ体系図は、材料がどの工程を通って製品になり、どこへ出ていったかを1枚に描いた図です。不具合が出たときに、どこまで遡れてどこまで追えるかを示します。
取引先や監査から求められて作ることが多い図ですが、作る過程そのものに価値があります。描いてみると、たいてい途中でつながりが切れている場所が見つかります。
この記事では、トレーサビリティ体系図を、識別の決め方・つながりの描き方・切れる箇所の見つけ方・記録への落とし方までまとめます。
この記事の内容(9項目)
トレーサビリティ体系図は2つの向きを描く
追いたい向きが2つあります。
| 向き | 問い | 使う場面 |
|---|---|---|
| 遡及(さかのぼる) | この製品はどの材料から作られたか | 不具合が出た。原因の材料を特定したい |
| 追跡(たどる) | この材料はどの製品になり、どこへ行ったか | 材料に問題が見つかった。影響範囲を出したい |
ポイントはここです。片方だけできる体制はよくあります。製品からは材料に遡れるのに、材料からどの製品になったかは追えない、という形です。
回収が必要になったときに効くのは、追跡のほうです。材料のロットに問題が見つかって、そこから出荷先まで出せるか。ここが出せないと、範囲を広く取るしかなくなります。
そのため、図は両方の向きで読めるように描きます。矢印を一方向だけにすると、片方が抜けていることに気づけません。
どちらの向きも、求められるのは緊急のときです。落ち着いて調べる時間はありません。図があること自体より、その図のとおりに動けることが要ります。
そのうえで、誰が追うかも決めておきます。担当が1人しかいないと、その人が不在の日に何もできません。
追うのに使う記録がどこにあるかも、あわせて書き出しておきます。紙なのか、共有フォルダなのか、システムの中なのか。場所が分からないと、担当以外は動けません。
2人以上が手順を知っている状態にしておくと、休みの日や夜間の連絡にも対応できます。
トレーサビリティ体系図は識別から決まる
何で区別するかが決まっていないと、図が描けません。
| 識別の単位 | 細かさ | 向く場面 |
|---|---|---|
| 個体番号 | 1個ずつ | 高価なもの、安全にかかわるもの |
| ロット番号 | まとまりごと | 多くの製造業 |
| 製造日 | 日ごと | 1日1条件で作るもの |
| 識別なし | 区別できない | ここが切れる場所になる |
細かいほど追いやすくなりますが、手間も増えます。全部を個体管理にする必要はありません。
決め方の目安は、不具合が出たときに止めたい範囲です。1日分を止めてよいなら製造日、もっと絞りたいならロットです。
そのうえで、識別の付け替えがどこで起きるかを見ます。材料のロット番号から、自社の製造ロット番号に変わる場所。ここが記録でつながっていないと、そこで切れます。
付け替えの記録は、現品票や作業日報に残ることが多くなっています。どの様式のどの欄かまで決めておくと、あとで探す時間が短くなります。
記録の様式を変えるときは、この欄が残っているかを確かめます。様式を整理したときに、使っていないと思って消してしまう欄がここです。
トレーサビリティ体系図が切れる場所
描いてみると、決まった場所で切れています。
- 混ぜる工程。複数のロットが1つになる。どのロットが入ったかの記録が要る
- 分ける工程。1つが複数になる。分けた先の記録が要る
- 仕掛品の置き場。置いている間に識別が外れる
- 手直しや再投入。別のロットの流れに戻る
- 外注へ出す工程。外注先の中での識別が分からない
- 出荷先。誰に何番のロットを出したかが残っていない
とくに多いのが、仕掛品の置き場と手直しです。どちらも、正規の流れから外れたところで識別が外れます。
手直し品は、元のロットに戻すのか、別のロットにするのかを決めておきます。決めていないと、その場の判断で混ざります。
混ぜる工程では、投入したロットを全部記録します。1つでも抜けると、その製品からは遡れません。
分ける工程では、分けた先をすべて記録します。片方だけ記録していると、追跡のときに半分しか出せません。
外注については、外注先にも同じ識別を求めるか、受け取るときに自社で付け直すかのどちらかです。連絡のしかたは外注先との品質連絡にまとめてあります。
トレーサビリティ体系図の描き方
順番は4つです。
| 順番 | やること |
|---|---|
| 1 | 材料の受入から出荷まで、工程を横に並べる |
| 2 | 各工程で使う識別を工程の下に書く |
| 3 | 識別が変わるところに縦線を引く |
| 4 | その縦線をまたぐ記録が何かを書き入れる |
4つ目で書くことが無い縦線が、切れている場所です。記録の名前が書ければつながっていて、書けなければ切れています。
記録の名前は具体的に書きます。「作業日報」ではなく「作業日報(様式A-12)の材料ロット欄」。あとで実物を確かめられる形にします。
図の形は問いません。工程を横に並べて、上に材料、下に記録を書く形が読みやすくなります。
工程の並べ方はQC工程表と同じものを使うと、2つの表を対応させられます。
トレーサビリティ体系図は追跡の練習で確かめる
描いただけでは、本当につながっているか分かりません。
確かめ方は単純です。実際に1つ選んで、最後まで追ってみます。
| やること | 見るところ |
|---|---|
| 出荷済みの製品を1つ選ぶ | 出荷記録からロット番号を引く |
| 工程をさかのぼる | 各工程の記録で前の識別に行けるか |
| 材料の受入まで戻る | ミルシートや受入記録にたどり着くか |
| 逆向きにも試す | その材料ロットから出荷先を全部出せるか |
かかった時間も測ります。監査や回収の場面では、時間そのものが問われます。半日かかるなら、実際の場面では間に合いません。
そのうえで、途中で止まった場所を記録します。そこが、次に手を入れる場所です。
年に1回でも練習しておくと、実際に必要になったときに動けます。練習していない体制は、図があっても使えません。
練習の結果は記録に残します。何分かかったか、どこで止まったか。次の年に比べられます。
監査の前にやっておくと、その場で聞かれても答えられます。監査での指摘対応は監査の指摘対応にまとめてあります。
トレーサビリティ体系図をどこまで細かくするか
細かくするほど手間が増えます。どこで止めるかを決めます。
判断の目安は、不具合が出たときに止めたい範囲と、記録を取る手間の釣り合いです。
すべてを個体管理にすれば完璧ですが、現場が回りません。逆に、月単位でしか追えないと、1件の不具合で1か月分を止めることになります。
一般には、安全にかかわる部位だけ細かくして、それ以外はロット単位という形が使われています。
そのうえで、取引先から求められる水準も確かめます。要求より細かくする必要はありませんが、要求に届いていないと取引そのものに影響します。
新しい取引が始まるときは、先に確かめておきます。確かめ方は新規案件のリスク確認にまとめてあります。
トレーサビリティ体系図を更新する
工程が変われば、図も変わります。
とくに、工程を外注に出したとき、設備を入れ替えたとき、置き場を変えたとき。どれも識別のつながりに影響します。
そのため、変更点管理の中に「トレーサビリティに影響するか」という確認を1行入れておきます。影響するなら、その場で図を直します。
図を直したら、追跡の練習も一度やり直します。直した箇所で本当につながっているかは、実際に追わないと分かりません。
結びつけ方は変更点管理にまとめてあります。
回収が必要になったときに使う
この図がいちばん効くのが、回収や出荷停止を判断する場面です。
問題のあるロットが分かったとき、そこから出荷先まで追えれば、回収の範囲を絞れます。追えなければ、疑わしい期間すべてを対象にするしかありません。
範囲の広さは、そのまま費用と信用に響きます。図と記録が整っているかどうかが、そこで出ます。
そのため、出荷記録とロット番号の結びつきだけは、最低限つないでおきます。ここが切れていると、社内をいくら追えても外へ出したものが分かりません。
判断そのものの流れは出荷停止の判断にまとめてあります。
出荷先の連絡先も、ロット番号から引けるようにしておきます。誰に出したかが分かっても、連絡がつかなければ止められません。
連絡先は変わります。年に1回、出荷先の一覧を見直すだけでも、いざというときの時間が変わります。
よくある質問
- Q. どんな形で描けばよいですか。
- 決まった形はありません。工程を横に並べて、上に材料、下に記録を書く形が読みやすくなります。大事なのは、識別が変わる場所と、そこをまたぐ記録の名前が入っていることです。
- Q. 小さい会社でも要りますか。
- 規模にかかわらず、不具合が出たときに範囲を絞れるかどうかは同じです。凝った仕組みは要りませんが、出荷先とロット番号の結びつきだけはつないでおきます。ここが切れていると、外へ出したものが追えません。
- Q. システムを入れないと無理ですか。
- 紙の記録でもつながります。切れているかどうかは、記録があるかないかで決まるので、媒体は問いません。ただし、追うのにかかる時間は媒体で変わります。半日かかるなら、仕組みを見直す材料になります。
- Q. トレーサビリティ体系図は何のために作りますか。
- 不具合が出たときに、どこまで遡れてどこまで追えるかを示すためです。取引先や監査から求められることもありますが、作る過程で切れている場所が見つかるところに実務上の価値があります。
- Q. 遡及と追跡の違いは何ですか。
- 遡及は製品から材料へさかのぼる向き、追跡は材料から製品・出荷先へたどる向きです。回収の場面で効くのは追跡のほうです。片方しかできない体制は珍しくありません。
- Q. どこで切れやすいですか。
- 混ぜる工程、分ける工程、仕掛品の置き場、手直しや再投入、外注、出荷先の6つです。とくに置き場と手直しは、正規の流れから外れたところで識別が外れます。
- Q. どのくらい細かく管理しますか。
- 不具合が出たときに止めたい範囲で決めます。安全にかかわる部位だけ細かくして、それ以外はロット単位という形が一般的です。すべてを個体管理にすると現場が回りません。
- Q. 図が正しいかどうやって確かめますか。
- 実際に1つ選んで最後まで追ってみます。かかった時間も測ります。半日かかるなら、実際の場面では間に合いません。途中で止まった場所が、次に手を入れるところです。
- Q. 外注に出した工程はどうしますか。
- 外注先にも同じ識別を求めるか、受け取るときに自社で付け直すかのどちらかです。求める場合は、どの記録を残してもらうかまで取り決めておきます。
- Q. いつ更新しますか。
- 工程を外注に出したとき、設備を入れ替えたとき、置き場を変えたときです。変更点管理の中に「トレーサビリティに影響するか」の確認を1行入れておくと、更新が止まりません。
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本記事は一般的な業務の進め方を整理したものです。社内規程、契約条件、法令上の要件がある場合は、それらを優先してご確認ください。記事の内容は2026-09-22時点のものです。